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私は今まで心理学とは無縁の世界で生きてきた。人の気持ちや心の動きに無意識の内に注意を払っていることはあっても、それを意識して学ぼうとしたことは一度もなかった。

心理学なんて所詮、何の決定的な結論を導き出せない学問であり、そういう曖昧さを引きずりながら学んだところで自分にとってプラスになるとはどうしても思えなかったからだ。そんな時、インターネットを通じて知り合った方に勧められ、ある一冊の本と出会った。

「魂にメスはいらない―ユング心理学講義」
河合隼雄・谷川俊太郎 共著(講談社+α文庫)


この本は谷川俊太郎という詩人と河合隼雄という臨床心理学者との対話によって成り立っているものだが、この時は正直言って、この本が自分にとって大きな意味を持つ本になろうとは思いもしなかった。ちょうど修士論文のテーマを決める時期だったため、何かの参考になるだろうという軽い気持ちで手にした一冊だったのだ。

というわけで、ユングという人物がどんな人だったのかも知らないド素人が、いきなりこの二人による心理学の講義を受けることになったのだが、読み進めていくうちにその内容に引き込まれている自分にふと気が付いた。その時、私の頭の中ではなぜかユング心理学とジョン・レノンが見事に重なっていたのだ。

このサイトを訪れてくれた方々の中には恐らく「ユング」という名前を一度は聴いたことがある方もいるだろう。ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の表ジャケット、最上段左より7人目の白髪の老人がカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)、その人である。

カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)1875年にスイスのツルガウ州、ケスヴィルに生まれたユングは青年期にバーゼル大学で医学を学んでいたが、精神医学専攻を決意し、卒業後チューリッヒのブルクヘルツリ精神病院の助手となった。その後、医学学位論文執筆、エンマ・ラウシェンバッハとの結婚を経て、チューリッヒ大学において神経症論と心理学の教鞭をとりながら、心理学者ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)と運命的な出会いをする。ユングはフロイトに自分の書いた研究を送り、それがきっかけで以後約6年間協調関係の中で精神分析の礎を築いていくことになるのだが、ユングが1912年に出版した『リビドーの変遷と象徴』という著書によりフロイトとの離反が決定的となったのをきっかけに訣別。その後、1961年に85歳で没するまで、個人の精神治療の仕事や、論文発表、講演などを積極的に行った。

フロイトとユングの考え方は多くの点で異なっているが、特筆すべきはフロイトがヨーロッパの科学的方法論にのっとって人間の潜在意識を探ろうとしたのに対し、ユングは東洋思想をも取り入れることで、ヨーロッパの伝統的な考え方だけでは超えられない無意識の問題を解決しようとしたことである。フロイトは男根やセックスとその攻撃性という概念によって無意識の底にある母性的なドロドロしたものを意識化する際に父性原理に基づいた解釈をするのだが、ユングは父性的な裁断ではなく、包括(全てを包み込む)という働きを持つ母性原理の重要さを高く認め、それに従って考察を進める。つまり、フロイトは男性的、ユングは女性的な見地から精神世界を表現しようとしたと言える。

私がユングの論にジョン・レノンの姿を見たのも、ユングのこのような母性重視の考え方に“マザー”を歌うジョン・レノンの姿が重なったからに他ならず、このシンクロニシティ(偶然の一致)こそがジョン・レノンに関する論文を書いてみようと思い立った動機の一つであった。

そして現在、私はインターネット上でこの研究を公開しようとキーボードを必死に叩いている。今回公開するものは私が昨年、論文として成立させたものに加筆・修正を加えたものなのだが、時が経てば経つほど、書き足したい事項が増えて、正直きちんとまとめられる自信はあまりない(笑)。

ただ、今後ビートルズやジョン・レノンを学術的に研究しようとされる方もいるだろうし、そういうことに興味のある方々も多いのではないだろうか。そういう方々にとって参考になればと思い、今回公開させて頂くことにしたのだが、本音を言ってしまえば、読んだ方全てに納得してもらいたいわけではなく、こういう捉え方もあるんだという一例を提示したいのだ。

納得できる内容には納得してもらえればいいし、できない内容にはハッキリと「これは違う」と思ってもらえればいい。音楽の持つメッセージ性を人それぞれ違う受け取り方をするのは当然のことだし、ましてや私自身、にわか作りの知識で一度も会ったことがない人間を分析しようとしているのだから、この説が全て正しいと言い切ってしまうことにはさすがに抵抗を感じてしまう。

しかし、私と同じように「愛と平和のジョン・レノン」という偶像にばかりスポットがあたる現状に嫌悪感を抱いている方々にとって、この論文は非常に効果的なアンチテーゼになる可能性を充分秘めているとも言える。これは結論ではなく、今まであまり語られることがなかった新たなジョン・レノン論の一つなのである。


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Mother
ユング心理学とジョン・レノン

Introduction
Chapter 1
1-1. 不安の源泉
1-2. 運命の出会い
1-3. 絶望の淵
1-4. 愛情の希求
1-5. 追憶のバックビート
Chapter 2
2-1. 2つの人格
2-2. 道化師の仮面
2-3. 仮面の裏のしかめっ面
2-3-1. 『Please...』
2-3-2. 『With The...』
2-3-3. 『A Hard Day...』
2-4. 道化師の告白
2-4-1. 『For Sale』
2-4-2. 『Help!』
Chapter 3
3-1. 人生の根源に見た...
3-1-1. 『Rubber Soul』
3-2. 幻想の中で見た「死」
3-2-1. 『Revolver』
3-3. 内なる少年への回帰
3-3-1. 『Sgt.Pepper...』
3-3-2. 『Magical...』
Chapter 4
4-1. オノ・ヨーコ
4-1-1. 『The Beatles』
4-1-2. 『Let It Be』
4-1-3. 『Abbey Road』
4-2. 夢は終わった
4-2-1. “Cold Turkey”
4-2-2. 『John Lennon...』


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