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"SYNCHRONICITY"

Released in 1983

80年代...ラジオ・スターはヴィデオ(MTV)に殺され、ロックがポップへと衰退していったあの頃。僕は家でビートルズばっかり聴いていたが、その姿勢にやがて変化が訪れる。小林克也氏が司会をする「ベスト・ヒット・USA」との出会いだ。この番組をきっかけにして僕は80年代の洋楽にものめり込んでいくようになった。第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンが起こり、美形ロック・スターが次々とアメリカの音楽シーンを彩っていた1983年、僕は1枚のカッコいいアルバムと出会う。それがザ・ポリスの最高傑作にしてラストアルバムとなった【Synchronicity】だ。

映画のスティールを思わせるモノクロームのコラージュ写真がそれぞれのメンバー毎に3列並び、赤、青、黄のペイントが上塗りされた印象的なアルバム・ジャケットがとてもカッコ良かった。当時、僕はまだ8歳のガキだったけど、このアルバムに心底夢中になった記憶がある。ビートルズと何のつながりもない流行の洋楽に自然に馴染むことができたのも、ビートルズによって英語の歌を聴くことへの抵抗がなくなり、小林克也氏がその向こう側にある広い世界へと導いてくれたからに他ならない。

A面は“Synchronicity I”で始まり、“Synchronicity II”で終わるんだけど、その間に比較的印象の薄い曲(失礼!)が並んでいる。その中でも昔から特に嫌いだったのが、アンディ・サマーズの書いた“Mother”という曲。小学生には怖過ぎるでしょ、この曲は。今聴いても良い曲だとは決して思えないし、歌詞をメロディそっちのけでシャウトしまくっていたり、最後には「ガッハッハッハ...」と大声で笑い出したりと、不気味さ満点の曲なんだけど、今聴くと実はこの曲がこのアルバムに対して非常に重要な役割を果たしているということに気付かされる。

タイトルとなった「シンクロニシティー」とは、実は心理学用語で「同時性」という意味を持つ。
CDMDなどへの録音をする際、再生と同時に録音することを「シンクロ録音」と言ったり、数人が水中で同時に同じ動きをする競技を「シンクロナイズド・スイミング」と言ったりするのはこの単語から由来している。そしてこの「シンクロニシティー」を唱えた心理学者こそ、誰であろうあのカール・グスタフ・ユングなのである。表アルバム・ジャケット中段(黄)の向かって右端で、スティングが何かの本を読んでいる姿を確認できると思うが、実はこの本の表紙には「Synchronicity」、「JUNG(ユング)」と書かれている。CDサイズだと小さくて読めないかもしれないが、LPのジャケットだとハッキリと確認できる。


そう、ユングなのだ!


ユングと言えば僕が書いたジョン・レノンの研究MOTHER
これを読んで頂いた方なら分かると思うが、ジョン・レノンの心を支配していたマザー・コンプレックスというのは母性的なアプローチをするユング心理学によって提唱されたものだ。そして、アンディが書いたこの狂気の曲“Mother”の主題も実はマザコンなのだ。次のような歌詞を見れば容易に理解できるだろう。

・「電話が鳴っている、また母さんだろうか?何で僕を放っておいてくれないんだろう」
・「僕がデートする女の子たちはみんな僕の母さんになってしまう」
・「愛する母さんお願いだ、僕を悩ませないでくれ」

この曲とアルバムの主題が実はユングでつながっていたという事実は、僕もつい最近になってようやく理解できた。母親に行動を支配され、精神までも母親像を求め苦悩する一人の男の姿が浮き彫りになった。そしてその事実に気付いた時、本当の【Synchronicity】の姿を見てしまうことになる。

このアルバムからの3大ヒット曲と言えば“Every Breath You Take”、“King Of Pain”、“Wrapped Around Your Finger”の3曲。全てアルバムB面に収められており、混沌としたA面に比べ落ち着いた雰囲気が漂っている。どれもシングル化されてヒットしていた記憶があるんだけど、“Mother”の事実を知った後これらの曲の歌詞を見てみると...。

Every Breath You Take
・「君がいなくなって僕は途方に暮れている 夢に見るのは君の顔ばかり 君に替わる人はどこにもいないんだ もう僕を泣かせないでくれ ベイビー、お願いだ」

King Of Pain
・「いつかは君の支配が終わると思っていたのに、苦しみの王になるのが僕の運命らしい」

Wrapped Around Your Finger
・「僕は君の意のままに操られるだろう」

歌詞の中の「君」ってもしかして...「母親」のことじゃないのか?


((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル


そうなると【Synchronicity】主題はかなり一貫性を持っているということになる。他にも“Walking In Your Footsteps”には恐竜が登場し、「僕らは君の足跡を辿っている」と歌われているけれど、母性像の象徴としてユング心理学に登場する「アニマ」はモンスターだと言われているから、それを恐竜に例えたとしても極論ではないはず。また、“O My God”という曲にしても「僕たちが初めて出会ってから過ごした無数の雨の日の話をしなくちゃいけないのかい? 傘は十分大きいのに、結局濡れるのはいつも僕だ...」という歌詞がある。これも考えようによってはいつも母親をかばい自分を犠牲にしてきた男の姿が見て取れる。

スティングは元教師という肩書きを持っているから、表現がインテリなのは不思議なことではない。しかし、アルバムの主題に心理学用語を用い、一件普通のラヴ・ソングの中にこういう意味を隠しているのではないかという可能性に気付いた時はさすがに鳥肌が立った。

昔のように「カッコいい」なんて一言で終わらせるのはもったいない。大変興味深く、素晴らしいコンセプト・アルバムだと思うのだが、皆さんはどう思われただろうか?

Reviewed by Kenny / on 06.06.12 16:42 / Permalink / Comment / TrackBack /
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